浦和地方裁判所 平成10年(行ウ)41号 判決 2000年6月26日
原告
小川修
被告
川越税務署長 鈴木由夫
右指定代理人
日景聡
同
下岡守彦
同
安部憲一
同
金谷滝夫
同
内田秀明
同
小野塚仁
同
豊岡清朗
同
浦野勉
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成九年八月二五日付けでした原告の平成九年一月から同年六月までの期間分の源泉徴収にかかる所得税の不納付加算税賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、二名の事務員を雇用し、本川越法律事務所(以下「原告事務所」という。)を経営している弁護士であり、所得税法(以下「法」という。)六条所定の源泉徴収義務者である。
2 原告は、平成九年一月分から同年六月分までの期間分の給与の源泉徴収に係る所得税三四万一九〇〇円(以下「本件源泉所得税」という。)を、法二一六条に基づき、法定納付期限である同年七月一〇日(以下「本件納付期限」という。)の翌日である同月一一日に納付した。
3 被告は、原告に対し、平成九年八月二五日付けで、不納付加算税の額を一万七〇〇〇円とする不納付加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
4 原告は、本件賦課決定処分を不服として、平成九年九月五日、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年一二月四日、本件賦課決定処分に対する異議申立ては棄却する旨の異議決定をした。
さらに、原告は、右異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、同月二七日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年七月二四日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
5 本件賦課決定処分は、以下のとおり、違法である。
原告は、本件源泉所得税の法定納付期限である平成九年七月一〇日に、原告法律事務所の事務員二名のうち一名により、本件源泉所得税を納付する予定であったところ、原告事務所の事務員一名が急な発熱のため、右同日に欠勤した。原告は、右同日、埼玉県川越市の法律相談を担当し、同日午前一〇時から午後四時まで原告事務所に戻ることができず、また、原告事務所に出勤した一名の事務員は、裁判所、検察庁及び顧客との連絡及び通知並びに緊急事件の依頼のために原告事務所を開所しておく必要があることから、原告事務所を離れることができなかった。そこで、原告は、やむなく、本件源泉所得税を右法定納付期限の翌日である同月一一日に納付したものであり、右事情は、事前に予知できるものではなく、平成一一年法律第一〇号による改正前の国税通則法(以下「通則法」という。)六七条一項ただし書の「正当な理由があると認められる場合」に該当するにもかかわらず、被告は、右事情が、本件規定の「正当な理由がある場合」に該当しないものとして、原告に対し、本件賦課決定処分を行っており、その内容に瑕疵があり、違法である。
6 よって、原告は、被告に対し、本件賦課決定処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、原告は、弁護士であり、法六条所定の源泉徴収義務者であることは認め、その余の事実は、知らない。
2 請求原因2ないし4は、認める。
3 請求原因5は、争う。
原告は、本件源泉所得税の納付が法定納付期限経過後にされたことにつき、通則法六七条一項ただし書の「正当な理由が認められる場合」に該当すると主張するが、原告が右「正当な理由」に該当すると主張する事情は、そもそも原告の個人的な事情で、原告にとって予測可能なものであり、原告には、原告自身若しくは原告事務所の事務員、家族及びその他の者に対し指示することによって、本件源泉所得税を法定納付期限の前日までに納付するなどの措置を講ずることが可能であり、原告主張の事由は、「正当な理由が認められる場合」に該当しないことは、明らかである。
第三証拠
本件記録中、書証目録のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因のうち、原告は、弁護士であり、法六条の源泉徴収義務者であること、原告は、本件源泉所得税を本件納付期間である平成九年七月一〇日の翌一一日に納付したこと、被告は、本件源泉所得税が、法定納付期間を徒過して納付されたとして、本件賦課決定処分をしたことは、当事者間に争いがなく、甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が、二名の事務員を雇用して原告事務所を経営する源泉徴収義務者であることが認められる。
二 ところで、原告は、本件納付期限である平成九年七月一〇日に、原告事務所の二名の事務員のうち一名をして本件源泉所得税を納付することを予定していたところ、右同日、事務員一名が急な発熱で欠勤し、また、他の事務員は、裁判所、検察庁及び顧客との通知や連絡、緊急事件の依頼等のため、原告事務所の事務を行う必要があり、事務所を閉鎖することができず、原告も法律相談業務のため、同日午後四時まで原告事務所に戻ることができなかったために、本件源泉徴収税を本件納付期限に納付することができなかったのであるから、本件源泉所得税を本件納付期限までに納付しなかったことについて通則法六七条一項ただし書に定める「正当な理由」があると認められる場合に該当すると主張し、当事者間に争いのない事実、本件証拠(甲第一号証)及び弁論の全趣旨によると、原告主張の右事実をすべて認めることができる。
法は、源泉徴収義務者は、給与等の支払いの際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月一〇日までに納付しなければならないが(法一八三条)、所轄税務署長の承認により、一月から六月まで及び七月から一二月までの各期間に徴収した所得税を、当該各期間に属する最終月の翌月一〇日までに納付することが許されており(法二一六条)、原告は、前示のとおり、原告事務所の事務員をして、本件納付期限である平成九年七月一〇日に、源泉徴収義務者として本件源泉所得税を納付することを予定していたのであるが、右納付期限当日、原告事務所の事務員が急な発熱で欠勤し、原告も法律相談業務のために原告事務所を留守にせざるを得ず、また、原告事務所を閉鎖することができなかったため、本件納付期限に納付することができなかったというのであるが、そもそも本件源泉所得税は、法定の納付期限までに納付すれば足り、原告及び原告事務所の事務員らは、本件源泉所得税は、法定の納付期限までに納付されるべきことを知っており、また、本件納付期限までに納付すべきことを当然に予定していたというのであるから、本件納付期限である平成九年七月一〇日に原告主張のような事由が生じ、そのために本件源泉所得税を納付することができなくなったとしても、右のような事由に基づく法定納付期限の徒過が、通則法六七条一項ただし書に定める「正当な理由」に該当すると認めることはできない。また、原告について、本件源泉所得税を本件納付期限に至るまでの間、納付することができなかったという事実があったと認めるべき証拠もない。
したがって、被告の本件賦課決定処分が違法であるとする原告の主張は、採用することができない。
三 よって、原告の本訴請求は、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一二年四月一〇日)
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 都築民枝 裁判官 蛭川明彦)